VSMを使いこなす

昨今、海外の工場を回って気が付くことはVSM、SCMサプライチェーンマネジメントの普及が急速に進んでいることに驚きます。これには1998年John ShookとMike Rotherの書いたLearning to Seeが大きく役立っていることは否めません。John Shook, はTPSを米国に移転する際、通訳として活躍しました。その結果、TPSの言葉上のエキスパートになりました。John Shook, Mike Rotherが著したこの本は解りやすく、英語版ゆえに瞬く間に世界を駆け巡りました。TPSで習った「物と情報の流れ図」と比べるとシンプルで解りやすく解説しています。1995年にTSSC(Toyota Supplier Support Center)がTPSを米国内に正しく普及させるために開設されました。初代所長が大庭元さんでした。丁度時を同じくしてわたしもクリーブランドのT社本社に移動になり交流が再開しました。TSSCもTPSを解りやすく普及させるにはどうするかで随分悩まれたとおもいます。Learning to Seeにも多くのアイコンが使われていますが、本家はTSSCだとおもいます。

しかし、うまく使い熟している所は皆無と言っていいでしょう。特に中国ではこのセミナーが大変人気があります。残念ですがセミナー講師がまずくどうやって描くかで終わりです。描いたあとどうやって使っていくかを教えていません。国内にもそれに近いものがありますが。PCのソフトもかなり出回っています。これこそただ綺麗に書くだけを考えたものです。以前、Toyotaの先生から習ったのは物と情報の流れ図を描いてどの工程と工程はつなげて流を実現できるのか、どこの仕掛在庫は省略して早い流を作ることが出来るのか。どこにストアーが必要か、どこにどれだけのストアーを開いて平準化ボックスをどこに設置して後工程引き取りの仕組みをデザイン(A,B, Cタイプ)するかを教わったことを思い出します。最近の米国流VSMの表現はもう少し詳しい情報が盛り込まれています。各工程には在庫量、サイクルタイム、段取り時間、品質ppm、スクラップ、機械故障率、など講師の資質によってさまざまな情報を盛り込ませています。しかし、描いた後、どうやって使い熟していくかを尋ねても正解は一切でてきません。書き上げることだけが目的になっています。まったく残念なことです。米国の友人は書き上げているうちに嫌になってくる、マップの上には問題を表わすシンボルマークで溢れかえり、何をやっているのかわからなくなるよ、問題が一杯あることは書かなくてもみんな知っているよ。と嘆いていました。

TPSの目的は会社が社内で儲けることです。リードタイムを短縮してハイターンなキャシュフローをめざし続けることです。いかなる改善も新設備導入もリードタイム短縮につながってなくては趣味の改善で終わってしまいます。中には良い物もあります。VSMはリードタイムにフォーカスしており改善のネタ、機会を目で見えることは我々TPS, リーンのコンサルタントにとっては良いツールです。

最近海外の工場を訪問すると、「私の工場はすでにVSMをもっています。ここはリーンな工場です。」と工場長が説明してくれます。また「VSMは作りました、でもこれどうやって使うんですか?」とよく聞かれます。でもVSM自体は大変良く描けています。これを使わない手はありません。

これは現状ですね? 将来図は? 今マップ上のどこの改善に取り組んでいますか? と尋ねても、「そんなこと習っていません!」です。でも、VSMさえあればこちらのものです。 TPSの目的、各工程で在庫レベルを押し上げている理由(次工程内不良が多い、サプライヤーの品質が悪い、段取り時間が長い、段取り回数が多い、機械故障が多い、作業者のスキルの偏り、欠勤率が高いなど、など)、4Mの不安定要因がいっぱい出てきます。このさまざまな不安定要因を安定化したり、排除するために5S, TPM, TPSがあることを教えると大変よく納得して一緒にやってくれます。このVSMがあれば何時間でもTPSを語ることができます。もう一つ興味深いのはTPSの右柱、JIDOKA領域が品質の安定化に重要なのは4Mの安定化を改善、保証する標準作業に誰も関心がないことです。この領域に関しても一度も説明を求められたこともありません。

米国企業T社、D社でのリーン評価表について。

15年くらい前から米国の2社からリーンエキスパートとして本社に招聘されました。両社とも不思議にリーンレベル評価表の作成プロジェクトからのスタートでした。世界中から集められたリーンナーと呼ばれる人たちとワイワイガヤガヤと評価表を17項目に絞り込んで、5段階で評価、レーダーチャートにまとめて見せる。とにかく形だけ作って各工場を回って診断しました。ここが弱いからここを重点に改善するようにとか。結局は現場マネージャーからは不満ばかりでうまく改善活動につなげることはできず、結果的に本社トップは工場長のリーダーシップの有無評価に採用され、何人も突然工場長の首が挿げ替えられる始末でした。いまでもこの評価表は存在しますがだれも使っていないようです。また、評価者が変わったら使えません。各評価者はベンチマークを知りません、自分で改善に取り組んだこともない人が他人の作った評価表を使って評価できません。また、ひどいことに、これが評価表だから俺たちが訪問するまでに自己診断をして送ってこい、という始末です。これでTPS、Leanに悪い印象をもってトラウマ状態で抵抗勢力になったユニオン幹部はたくさんおりました。これでは本末転倒、現場をサポートすることより、プレッシャーをかけるだけでした。それでも何とか全国に散らばっている工場のパフォーマンスを数字だけ本社に送らせて中央からコントロール出来ないかと考え在庫日数、不良率、納期遵守率、特別便コスト、顧客クレーム数、作業者数など各工場から出させていいの、悪いの、来月の達成見込みのコミットメントなどやはり現場を助けるどころか、威圧するケースが増えて低い数字のところを皆で助けてやろうという動きにはならなかったことを経験しました。そうこうしているうちにVSMを各工場に導入することになりました。

これも最初は「何でこんなものが必要か?」「言われたから作った!」でスタートしたが、だんだん各工場にVSMで現状の姿、実力が比較できる、製品群でも比較できる、など評価表の代替として使えるぞと使い方、見方を変えてみるとこれが情報の共有、改善の優先付、改善の順序、などが目に見えて社内コンサルタントメンバー内でも認知されるようになってきました。通常VSMは鷹の目で見た状態、改善は時には虫の目で見た工程の中を機械配置にまで落とし込んで工程内のVSM(D社ではこれをコネクションマップと名付けていた)も有益なビジュアルツールとして使用できるようになりました。

 

VSMはコミュニケーションツール

診断評価、レーダーチャートで示すよりVSMを現場に貼り出すことで関係者全員に自分の部署は何をするべきかを考えさせて、他の機能部署をも巻き込む事が出来る。

トップから全員が読み方を習得して改善、改革の方向を共有できる。

製品群間、工場間、で比較評価が正確で容易。

改善の歴史を必ずVSMに添付する。

現場は評価表では改善が出来ない。

評価表では改善の順番、方向性がバラバラ、スポット改善でシステマティックに進めない。

当面の改善プラン、スケヂュールも添付する。

良いリーン推進リーダー、理解あるトップの工場はうまく使いこなしていくようになりました。

株式会社リーンランド研究所の鈴木雅文所長は上手くこれを改革指導に取り入れて使っておられます。